4/23/2010

「マネとモダン・パリ」展












三菱一号館美術館
http://mimt.jp/


今月オープンした、三菱一号館美術館に行ってきた。
新しいだけあって、とてもきれい。
その一方で、見事に復元されているため”荘厳さ”も感じられた。

ただ、通路がたくさんあって建物の中で迷子になりかけた。


久しぶりに印象派の絵をまとめて観た。
そのことで、いくつか新たな「発見」があった。

そのうちのひとつについて、紹介したい。




一番印象深かったのは、「競馬」というデッサンである。

人間の視界には、
「見ている」もの、「見えている」もの、「見えていない」もの
の3種類がある。

これは至極当たり前なことだが、
日常生活においてはほとんど知覚されない。
絵画においても、全体を良くも悪くも均質的に描出しようとするため、
そのことは知覚され難い。

その点でこのデッサンは、大多数の絵画と比べて一面的には
「非常に正直だ」
ということなのかもしれない。

インターネットでも見ることができないようなので、
是非一度足を運んでみてほしい。

4/12/2010

シャッター・アイランド(SHUTTER ISLAND)












シャッター・アイランド official site

http://www.s-island.jp/

今日は「シャッター・アイランド」を観てきました。


ネタバレすると面白さが半減してしまうので、
できるだけ何も知らずに観に行くことをオススメします。


以下、感想を書きますので観る予定のある方は

お気を付けください。






この映画は、「記憶」と「現実」がテーマだと思う。


これまでの記憶の積み重ねによって成り立っている

今という「現実」が、その人のとらえ方によって

すさまじく変わるものだ、ということが150分近くを

費やして丁寧に描かれている。



「現実」とは何だろうか。

物語中盤過ぎにテディとレイチェルが洞窟の中で

会話するシーンが、その問いに気づく大きなヒントとなった。


「精神病患者は、たとえまっとうなことを言ったとしても、

周囲から『精神病患者だ』と決めつけられているので

決して周囲の同意を得ることができないし、まっとうな

人間だ、とはみなされない。」


すなわち、「"正しい"見方」とはマジョリティーが共有している

ものの見方である、ということだ。



でもその見方には、なんの裏付けも存在しない。


もし権威をもった第三者から、

「君の見方は妄想でしかない。これが現実だ。」

と突きつけられたら、反論できるだろうか。

そう考えると、自分のものの見方がどんどん
信じられなくなってくる。



精神の病を抱える人と、そうでない人は、

実は紙一重なのかもしれない。

4/10/2010

学歴社会の法則

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以前から気になっていた本だったが、やっと買う気になった。


まえがきに、「教育は多大な物的資源、教師・職員のサービス、
そして生徒・学生の時間と努力を必要とする経済活動である。」
とある。
経済的なアプローチに限らず、教育は学問横断的なテーマである。
世間で広まり、独り歩きしている感さえある「教育論」とは異なる
見方を提示してくれたという意味で、読んだ価値はあったと思う。


筆者は
、これまで教育に関する経済学的な議論がうまく活用
されてこなかったのは、経済学が「市場の完全性」を前提として
いるためだ、と指摘している。

私自身、経済学的な思考を興味深いものだと感じながらも、
胡散臭さを感じている。
経済は「完全競争市場」という現実には存在しない市場を前提
として理論構築を進めているからだ。
(このことについてもさまざまな議論があるが、ここでは議論を避けたい。)
その点を配慮してきちんと説明してくれている点で、筆者に
共感できる部分が大きい。


この本の主張で好意的にとらえることができるのは、「現場任せに
しない」解決策を提示していることである。
経済学的な思考を用いて、「ペイできるのであれば、政府はどんどん
投資すべきだ」という論を展開する。

ややもすれば教育は、「現場の頑張りが足りない、もっとがんばれば
よくなるはずだ」という安易な押し付け論に陥りやすい。
(「教師の一層の努力が求められる」、「生徒の意識改革が必要だ」、等々。)
確かに現場の改善努力が一番大切なのだが、それでは済まないので
様々な問題が噴出しているのではないだろうか。
その観点から考えると、行政的な側面からもアプローチしている
のは評価できる。



一つ残念なのは、第7章「教師と学級規模の経済学」の内容が、
「学級規模」の問題に偏りすぎて、教師と生徒間の問題について
ほとんど触れられていない点だ。
個人的に最も興味を持っている領域なので、類似した本があれば
ぜひ読んでみたい。

マイレージ・マイライフ(UP IN THE AIR)









「マイレージ・マイライフ」official site
http://www.mile-life.jp/

映画が面白い季節になってきた。

先日、「マイレージ・マイライフ」を観に行った。
作品の詳しい説明はofficial siteに譲って、
さっそく感想を書こうと思う。




物語序盤の軸となるのは、現場主義のライアンと
IT化による合理化を図るナタリーの会話である。

これはまるで、現場に重きを置く「日本的経営」と
論理的手法を駆使する「アメリカ的経営」の対比に思える。
「日本」が負けて「アメリカ」が勝つ、なんていう安直な
最期はいやだなぁ、と少し心配。

しかし物語ではライアンとアレックスの恋愛が
描かれるようになる。
次は「いままでふらふらしてきたライアンが
おさまりどころを見つけて、ハッピーエンドかな」と読む。

ところが、そういうわけでもない。
ライアンはアレックスとうまくいかなくなるのだ。
では、この物語の落とし所は?

結局、物語の中で落とし所が描かれることはない。
何かあるはずだ、とよく考えてみると、
この映画の原題は "Up in The Air" なのだ。
直訳すれば、「宙ぶらりん」といったところか。

ライアンがリストラを宣告した会社員たちも、
自分に自信を失い会社を辞めたナタリーも、
そしてライアンまでも最後には「宙ぶらりん」
になってしまうのである。

極めつけはend roleの音楽。
監督の知り合いがリストラされたときに
気持ちをつづった曲が流れるのだが、
その曲のタイトルは、
"Up in The Air"。

end roleを見ながら、観客までも「宙ぶらりん」に
なっているかの様な感覚に陥るのである。

最後に隠し味がピリッと効いている。


一見smartに生きているかに見える人たちが、
実は「宙ぶらりん」を経験しながら生きている。


監督が伝えたかったのは、「みんな苦労してるんだよ」
ということなのだろうか?


DVDが出たら、もう一度見て反芻してみたい。
「すっきりしなくてよかった」と思える映画だった。